西洋哲学B/第13回(12月18日)/代理母出産・代理母問題について
【概念と方法】

子供を持てない夫婦が、妻以外の女性に出産してもらうことを代理母出産という。
「だいりぼしゅっさん」あるいは「だいりははしゅっさん」と言う。
英語では「surrogate」と言う。
結婚しても何らかの理由によりいつまでたっても子供が出来ない場合、
夫婦の間で「別に子供は必ずしも持たなくてもいい」と合意があったり、
積極的に「子供は作らない」と決めている場合などはそれでよいのであろうが、
やはりどうしても自分たちの子供が欲しくても出来ない場合、
一般に妻の側に子供が出来ないことに対する「あせり」のような気持ちが生じてくる。
また夫婦のそれぞれの親や親族からの「子供はまだか? 何をやってるんだ」といった
有形無形の圧力がかけられることも決して少なくはない。
首都圏など大都市圏においては最近は少なくなってはいるようだが、
地方に行けば行くほどそうした「圧力」は強くなる。
しかもそうした「圧力」を主に受けるのは女性つまり「妻」の方である。
周囲からの何気ない「お子さんはまだなの?」的な言葉は、
言った本人は軽い気持ちでそんなつもりはなくても、
言われた妻の側には心理的に非常に重いプレッシャーを与えることになる。
これは最近では「マタニティー・ハラスメント」(マタハラ)の一種であるとされる。
このような「圧力」を受けなくても、純粋に子供が欲しいが出来ないといった場合には
「代理母出産」が選択肢の1つとなる。
代理出産は、最近では同性愛者のカップルが子供を持つ場合にも行われることがある。
◆現在、ヨーロッパではドイツ、イタリア、オーストリア、フランス、スイスなどが、
またアジアではトルコ、サウジアラビア、パキスタン、中国などが代理母出産を禁止している。
◆日本では代理母出産を禁止する法律はないが、日本産婦人科学会や日本学術会議などによる自主規制(原則禁止)
が行われており、代理母出産を希望するカップルはアメリカなどの外国へ行ってそれを行っている。
その場合、代理母から生まれた子どもは、日本の法律上はその夫婦の「実の子」とはされないので、
帰国後に養子縁組手続きを取ることになる。
◆宗教的には、キリスト教ではカトリックは代理母出産に反対、
プロテスタントは宗派によって微妙に異なるが総じて慎重・否定的である。
イスラーム教でもおおよそ否定的であるが、父子関係が明確である場合には容認するという意見もある。
仏教では明確なルールが打ち出されていない。

島根県松江市・八重垣神社 子宝祈願・安産祈願のカップルが数多く訪れる。
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◆代理出産には二つのパターンがある。
①代理母と子供には遺伝的な関係はないパターン(遺伝関係のない受精卵を代理母の子宮に入れて出産)
夫婦の精子と卵子を体外受精させ、その受精卵を代理母の子宮に入れ、出産。 ホストマザー、借り腹と言う。
→第三者から提供された卵子と夫の精子を体外受精させ、その受精卵を代理母の子宮に入れ出産。
→第三者から提供された精子と妻の卵子を体外受精させ、その受精卵を代理母の子宮に入れ出産。
②代理母と子供には遺伝的な関係があるバターン
夫の精子(もしくは精子バンク)を代理母の卵子と人工授精させ、出産する。
代理母と子供は遺伝関係にある。サロゲートマザーと言う。

歴史と現状
1976年 合衆国で代理母出産第1号。
1985年1月 英国初の代理母ベビーが誕生。
わが国では、日本産科婦人科学会の決定(1983年10月)により、自主規制が行われているため、
国内では原則として実施されていない。これまでに以下のような動きがあった。
2001年5月
諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が、
国内初の代理母出産を実施したと公表した。
2003年11月
タレントの向井亜紀が国内の自主規制を避ける形でアメリカで依頼した代理母出産から双子が生まれた。
2004年1月、品川区役所は分娩者を母親とする日本の戸籍法の解釈から書類を受理せず。
2006年10月
諏訪マタニティークリニックの根津八紘院長は、
50代の母親に30代の娘の代理母として出産させていたことを公表。
2007年3月
向井亜紀と高田延彦夫妻が2003年に代理母出産によって得た子供を養子ではなく
戸籍上の実子(正式な親子関係)として扱うよう求めたのに対して、最高裁はそれを認めない決定をした。
2007年4月
諏訪マタニティークリニックの根津八紘院長が、50歳代の母親に娘の代理母として
「孫」を産ませていたことが再び明らかにされ、日本産科婦人科学会は根津院長を厳重注意処分とした。
2008年1月
日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」の作業部会は、
代理出産を新法で禁止すべきだとする報告書素案をまとめた。営利目的の代理出産に対しては刑事罰を科す。
営利目的以外については明確な法的定義がないので、個人の判断で行う場合は国外で出来る。
長野県下諏訪町「諏訪マタニティークリニック」(現在代理母出産は休止中)
代理出産の費用
代理出産は、アメリカなどに渡って行うと、総額で数百万~1000万くらいかかる。
あるいは
代理母出産を求める側の費用は、
「クライアント一組につき平均1500万~1700万円かかる」といった情報もある。
体外受精一回の費用が約150万円、代理母に支払う報酬が約250万円、
それとほぼ同額が斡旋業者にも支払われる。
それに検査代、渡航費、ホテルでの滞在費などを入れると、支障なく1回で成功しても、
1千万円ほどの費用になるのだという。
10年ほど前、代理母が双子を早産し、赤ちゃん一人が死亡。
もう一人が心臓手術を受けるためにヘリコプターで
ネバダ州からサンフランシスコの大学病院まで運ばれたケースがあったという。
これは極端なケースで、トータル8千万円ほどかかった。
しかし何が起こるか予測がつかないところが難しいとされる。
2005年9月には代理出産の韓国ルートがあることが報じられた。
韓国人女性に代理出産してもらった場合、女性や業者に支払う謝礼は700万円前後という。
渡航費や病院での費用などは別途かかるが、費用は米国での相場の半分以下。
技術は米国並みに高いと言われる。
代理母出産がビジネス化する動きにつながる。いわゆる「代理母ビジネス」である。

世界各国(欧米)の状況
イギリス
1990年の「ヒトの受精及び胚研究に関する法律」で営利的代理母契約を禁止という制限付きで認めている。
アメリカ
国レベルの法規制はおかれていない。
しかし1989年の「技術援助により懐胎した子の法的地位に関する統一法」において、
事前に裁判所が契約を審査するという条件付で認めるか、禁止か、のいずれかを、
各州に選択させる、という方法を取った。
日本人夫婦が渡米して斡旋を受け、代理出産に成功したケースは10例以上報告されている。
しかし、十数州では禁止する立場が支持されている。
フランス
フランスでは1994年制定の「生命倫理法」により、やはり有償・無償ともに禁止。
スウェーデン
「IVF法」により営利的契約についてのみ禁止。
ドイツ
ドイツでは1989年に制定された「養子斡旋・代理母斡旋法」などによって有償・無償問わず禁止。
代理出産反対意見と賛成意見
◆代理出産慎重・反対意見
-人間に許される行為ではない。
-反自然的方法であり、性行為とそれに先立つ男女の関係を伴わない「ヒトの製造」である。
-公序良俗に反している。
-女性を子供を産む機械として扱っている。女性蔑視を助長するのではないか。
-代理出産が報酬で請け負われることにより、代理出産のビジネス化が進む。
女性の子宮を商品として利用することになる。
-母性本能を軽視している。代理母が子の引き渡しを拒否する事件が起きている。
例えばアメリカで起きた「ベビーM事件」など。
| ※「ベビーM事件」 1986年にアメリカで代理母が自分が産んだ女児(マスコミから「ベビーM」と呼ばれた)の引き渡しを拒んで養育権を要求したため、この代理母と出産契約を結んでいた夫婦が代理母に女児の引き渡しをを求める裁判を起こした。1987年には代理母契約を有効と認め、代理母には親権も養育権もないという判決が出たが、1988年の判決(ニュージャージー州最高裁判所)では代理母契約は無効とされた。結局父親は精子を提供した夫、母親は代理母、親権は父親に、代理母には訪問権を認めた。通常の離婚訴訟に準じる扱いとなった。この事件以来、国際的に代理出産を規制する動きが起きた。 (下に関連する新聞報道記事あり) |
-代理母から引き離される子ども、子どもを取り上げられる代理母の精神的ダメージが無視されている。
-妊娠・出産に対するリスクを軽視しているという意見 - 先進国においても妊産婦死亡がゼロになっていない
ことからも明白なとおり、妊娠・出産には最悪の場合死亡に至るリスクがある。また、死亡に至らずとも母体
に大きな障害が発生する場合もある。そして、このようなリスクを軽視し、それらを代理母に負わせることに
対する倫理面からの批判がある。なお、出産時に母体に障害が発生した場合について、代理母側に不利な条件
での契約がなされていることもある。
-出産の影響で、その後子供を産むことができなくなる女性もいる。そうしたリスクを他人に負わせるのは、
問題が大きすぎる
-障害者差別を助長する。妊娠時の羊水染色体検査が義務づけられており、障害がみつかった場合は強制的に
中絶させられることが多い。
-障害児が生まれた場合、依頼者が受け取りを拒否する事件も起きている。さらに成功率向上の必要もあって、
受精卵を子宮に戻す前に、問題のある受精卵を排除するための着床前診断が行われている場合もある。
-人種差別を助長するという意見がある。米国においては、代理母として同一人種・同一民族・同一国籍の女性
を求める傾向があるため、(依頼人に多い)白人に需要があつまり、黒人女性が代理母をつとめる場合よりも
白人女性が代理母をつとめる場合の方が契約金が高額である。代理母出産を批判するグループは、この現象が
黒人差別を助長すると主張している。
-民法上の扱い - 現在の日本の最高裁判例においては、「母子関係は分娩の事実により発生する」(最高裁判所
第二小法廷昭和37年4月27日判決、昭和35年(オ)第1189号 親子関係存在確認請求事件、民集16巻7号
1247頁)との判断が示されており、遺伝子上は他者の子であっても代理母の子として扱われる。このため代理
母と子との間で相続上の問題が発生することが懸念される。遺伝子上の親を実親として認めさせようという
動きもあるが、生まれた子が依頼者・受託者双方と遺伝子上のつながりを持たないケースがあり、単純に
遺伝子的つながりのみで親子関係を確定することはできない。
-柘植あづみ、鈴木良子らフェミニズム系の論客は「子供を欲しいと思う感情は人間の本能ではないから、
克服可能である(だから高度な生殖医療は必要無い)」としている。
-生まれる子供にとって、家族関係が複雑化する。例えば2005年には女性同性愛のカップルが、一方の女性の
卵子と知人の精子を体外受精させ、もう一方の女性の子宮に入れる計画を韓国で行う計画が明らかになった。
この子供にとって母親が二人いることになる。
-もっと複雑なケース
①父より先に母が死んだ。父は後妻を迎えたがこの後妻は子宮の病気のために不妊であった。
そこで父の精子と後妻の卵子を受精させて、これを父の実の娘(20歳代~)が代理出産すると、
この娘は父の子供を産んだことになる。これは近親相姦ということになるのか?
②あるいは息子とその嫁の受精卵を息子の実母の子宮に入れて代理出産すると、これまた近親相姦か?

代理母契約は有効 米の「ベビーM事件」で判決/1987年4月1日、朝日新聞夕刊
◆代理出産賛成意見
-「人間に許される範囲を超えている」という指摘もあるが、どこまでが「人間に許されること」なのかを
一義的に決定することは難しいのではないかという反論もある。例えば夫婦ともに健康で通常の妊娠出産が
可能であるのに代理母出産での生殖を行う場合と、子宮癌など生死に関わる病気を患い、代理母出産の可能性
だけを生きる望みとして闘病生活を乗り越えてきた女性が代理母出産での生殖を行う場合では、倫理面で
同じ基準を適用しうるかどうか。
-多くの批判は「このような事例もある」という、個々の事例の問題を持ち出して、代理母出産の全てが
そういった問題を引きおこすかのような議論を行っているのではないかという批判がある。
-母性本能を軽視しているという意見については、「ベビーM事件」が論拠であるが、全ての代理母が生まれた
子供の引き渡しを拒否するわけではない。
-ボランティアは命がけでやるもの。どんなリスクがどのくらいの確率であるのかを事前に説明するのは医師
の役目だが、それをきちんと理解した上でやろうという人を止めることはできない。万が一の場合を考える
なら、やめろというのではなく、むしろ保険制度を作るとか、社会的にサポートする手段を考えていくべきだ。
-妊娠・出産に対するリスクを軽視しているという意見については、出産時の障害等に係る契約が代理母に
不利であることが根拠であるが、全ての代理母が不利な契約を結ばされているわけではない。
-女性蔑視を助長するのではないかという意見については、「妊娠中の生活について、細かく規定されている
ことが多い」というのがその論拠であるが、代理母ではない妊娠中の女性の生活と比較しての実証的な議論
ではない。
-「差別を助長する可能性があること」と「差別が恒常的に発生していること」は別の問題であるが、
代理母出産を批判するグループは、精密な社会調査を踏まえた実証的な研究を行わないまま可能性の問題を
事実の問題にすり換えてしまうことがある。
-人類史を振り返ってみれば家族のあり方は極めて多様なものであることを考えると、代理母出産を批判する
際にしばしば持ち出される「家族関係を複雑化する」という主張は説得力を欠く。「複雑化した家族関係を
背負って生まれる子供が哀れだ」という批判もあるが、こうした批判もまた「複雑化した家族関係を背負って
生まれる子供は哀れだ」と決めつけており、差別を逆に助長するのではないかという意見もある。

ある代理母出産仲介エージェントのホームページ
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本日のオンデマンド方式の授業は以上です。
簡単な感想をメールで提出して下さい。400字程度までで。
ワードの添付ファイルにするのではなく、メール本文に直接書いて送信して下さい。
メールのタイトルは「学番/氏名/西洋哲学B」として下さい。
例:1CPY1234/東海花子/西洋哲学B
期限は12月23日の22時とします。
メールアドレスは次の通りです。
h-nakagawa@tokai.ac.jp
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★最終試験について★
最終回(1月22日・2限)は、2W-101教室にて筆記試験です。
「脳死と臓器移植」「安楽死と尊厳死」「代理母出産」
の中から1つを当日出題します。
大まかな概略や問題点などを書けるようにしておいてください。
インターネット記事のコピペのような内容は評価が非常に低くなるので注意して下さい。
筆記用具が必要です。
時間は約1時間です。
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スマホ・パソコンも不可です。
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個別に対応します。
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